サントラCDレポート(TVドラマ):
フジテレビ系月曜ドラマ「FOR YOU」オリジナル・サウンドトラック
KING RECORDS KICS469
1995.2.22 リリース
ドラマ「FOR YOU」
「FOR YOU」は1995年1月-3月期のフジテレビ系列の「月9」ドラマとして放送されました。
中山美穂さん扮する24歳のトレーサー吉倉弥生は、19歳のとき旅先で知り合った男性と恋におち、東京での再会を約束するものの、その男性は飛行機事故で亡くなってしまいます。彼との子どもを身ごもっていた弥生は19歳にしてシングルマザーとなり、5年間夢中で息子トオルを育てます。すっかり恋愛から遠ざかってしまっていた弥生が、派遣先の職場で出会った男性、三矢 徹(高橋克典さん)と恋に落ちたはいいけれど、自分に子どもがいることを言い出せず、自分の最愛の存在が、恋の最大の障害になってしまいます。そんな皮肉な運命を乗り越え、人として母として、大きく成長する弥生とそれを取り巻く人々のラブ・ストーリーです。
“ゲツク”の音作り
フジの“ゲツク”といえば、「東京ラブストーリー」や「101回目のプロポーズ」を思い出してもわかるように、とにかく音楽が印象的です。そのことについて、このドラマの音楽監督志田博英さんが興味深いコメントをよせています。それまでのドラマの音楽制作は、まず映像が先にあって、それに劇伴音楽をあわせていくという、音響効果の人々にとっては何かものたりない作業だったそうです。ところが“ゲツク”では、映像が先行して音が作られたり、そして時には音楽が先行して映像が作られたりといった、映像と音楽の双方向性が実現したプロジェクトなのだそうです。そして、このサントラ「FOR YOU」も、「演出家・作曲家・音響効果が三位一体となって作り上げたもの」だそうです。“ゲツク”のドラマを思い浮かべたとき、必ず映像と同時に音楽が頭の中になだれこんでくるのは、そんなプロセスを経ているからだったんですね。
オリジナルサウンドトラック
インターネットの恩恵はいろいろありますが、とにかくありがたいのが、なかなか一般のCDショップでは手に入れにくい何年も前のCDを、自宅にじっとしたまま入手できること。このサントラはもう10年近く前のもので、私もずっと探していたのですが、クリック数回で自宅にお届けしてもらえました。ユーズド市場、ありがたや。このアルバムは新品でしたが、たとえユーズドでも、こうして羽毛田さんの作品が人から人へ、大事に引き継がれていくのを見るのはなかなか感動的です。
レポを書くようになって特に思いますが、サントラのブックレットは情報の宝庫です。今回も、私が観なかった9年前のドラマの内容が、ブックレットでだいたいわかりました。
そして、羽毛田さんの紹介文は1995年当時のものだから、デビュー時のAFRIKAでの活動と、90年前後のEUPHORIAでの活動の間に、ギタリスト山岸潤史さんとセッションしていた時期があったなどという過去の活動もわかるし、最近では見たことのないような若ーい頃の顔写真なども…(今の羽毛田さんと学生時代の羽毛田少年を、まさに足して二で割ったようなお顔です(笑))。
ところがめずらしいことに、肝心のミュージシャンクレジットが載っていませんでした。私が一番興味を持つところなのですが…。ぜひ記録に残しておきたいので、「私参加しました」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ書庫番までご一報ください。(笑)
01. FOR YOU -Main Theme-
フルートとハープの美しいイントロで始まる、ピアノとストリングスのメインテーマ。後半に進むに連れて、さらに叙情的に、壮大な感じに。まさに“ゲツク”です!
メロディーの美しさは今の羽毛田さんにも通じるところですが、何かがちょっと違う。音数が多いような気がするのです。今なら、もう少しシンプルな仕立てになるかも?
02. By Bicycle
がらっとムードが変わって、楽しげなハーモニカで始まるリズミカルな曲。
主旋律のソプラノサックスに、とってもいい感じにハーモニカがはさまります。このハーモニカは絶対アリさん(松田幸一さん)!と瞬時に思いました。
中盤のメインはフルート。いい演奏です!こういう吹き方好きです。フルートは、サックスプレイヤーでもある包国充さんではないかな?
羽毛田さんとともにEUPHORIAのメンバーだった方ですが、この後のいくつかのサントラでも包国さんがサックスとフルートを担当されています。
03. トオルと守男
ハーモニカがメイン、バッキングはピアノとアコースティックギターのカントリー調のほのぼのした曲。
守男(高嶋政伸さん)は弥生が息子のトオルを預けている保父さんで、弥生の心の支え的存在。
04. Fresh from the Kitchen Part I
ボサノバタッチのフルートメイン、アコースティックギターがバッキングの曲。
フルートの音がとってもさわやか。晴れた日の朝にぴったりな感じ。 中盤ピアノがフルートに入れ替ります。このピアノのアドリブ演奏も素敵です。ときどき「ターン!」と強いタッチで音が入るところ、羽毛田さんのピアノです!
05. 愛しさも切なさも −ピチカート・バージョン-
バイオリンのピチカート(指で弦をはじく)で始まる短いけど美しい演奏。
16、17の曲と同じ旋律。
06. ベスト フレンド
ピアノソロの、練習曲のような無邪気な感じの曲。
13と同じ旋律。
07. 風の並木道
メインもバッキングもアコースティックギターのおだやかな曲。
さらに後ろに抑え目のストリングスが入って、奥行きを出しています。
葉っぱが残り少ない、晩秋の晴れた日の並木道、という感じ。
08. Recollection
アコースティックギターとピアノの伴奏で、少し切ないメロディーをフルートが奏でます。ピアノの高音とフルートのアドリブがシンクロするところがほんとに美しい。
09. 霞町25時
とっても羽毛田さんらしい打ち込み系。
ハードタッチなフルートのアドリブが差し込まれて、面白い曲です。午前1時の闇の世界。
10. Fear of losing you
マイナーコードの、ちょっとうつむく感じのピアノ曲。
さざなみのようなピアノの音が、不安に乱れる心の波紋を表しているよう。
11. Memories
ピアノの伴奏に、アコースティックギター。
ギターが、「カヴァティナ」(image d'amourに収録されてます)のようなつぶやくような音で、切ない気持ちになります。
12. Fresh from the Kitchen Part II
04と同じ旋律、バッキングですが、主旋律がギターです。
04よりちょっと男性的な感じ、大人な感じに。04も12も、劇伴というよりインスト曲として普通に聴いていたい感じです。ゴンチチ風。
13. 僕 悲しくなんかない
06の曲がピアノとハーモニカでリズムを変えてアレンジされています。主人公弥生の幼い息子トオルくんのイメージでしょうか。
14. Melty KISS Rag
“Rag”とあるとおり、ラグタイム調のコミカルな曲。
クラリネットメインに、ハーモニカ、ピアノといった伝統的なスタイル。かなり長い曲なので、アリさんのハーモニカが存分に聴けます。
15. Tear drops
フルートとピアノのデュオ。さえずるようなフルートがとても美しい。
この劇伴では、フルートが主人公弥生、ハーモニカが息子のトオルのテーマ、という感じかな。
16. 愛しさも切なさも -オルゴール・バージョン-
オルゴールバージョンの入っているサントラは、羽毛田さんの作品では初めてですね。
弦楽バージョンとはずいぶん感じが変わりますが、ドラマの場面に差し込まれるととても印象的かも。聴いていると、架空の映像がなんとなく浮かんでしまいますから。
17. 愛しさも切なさも
これが5と16の原曲バージョンでしょう。
同じ旋律でも、楽器とアレンジの違いで連想する場面が全く変わります。
オルゴール音のキーボードと、オーボエ(イングリッシュ・ホルン?)がからみあいながら主旋律を奏でます。それとバックの厚いストリングスとの対比に、ストーリーを感じます。
18. FOR YOU -Sweet Love-
ハープの伴奏に、甘いバイオリンの調べ。メインテーマがシンプルにアレンジされています。バイオリンの演奏がすばらしい!
19. HERO -FOR YOU Ending Theme-
中山美保さんが歌ったエンディング曲の、ストリングスアレンジ。
オーケストラアレンジは大塚彩子さん。かなり大編成のストリングスみたい。
01〜18 作曲・編曲: 羽毛田丈史
19 作曲: M. Carey、W. Afanasieff 編曲: 大塚彩子
おそらく羽毛田さんのドラマ劇伴デビュー作ではないかと思いますが、瑞々しく、そして若さを感じる作品です。これだけたくさんフルートを使っている作品もめずらしいです。
私はドラマを全く知らないのですが、旋律や演奏の美しさが心地よくて、もう何回も繰り返して聴いてしまいました。ピアノの音の感じとか、今の羽毛田さんと違うところを見つけてみるのも楽しいかも。ショップでは手に入りにくいですが、まだまだ入手可能ですから、「アコースティックな羽毛田さん」が好きな方にはぜひ聴いてほしい1枚です。(041017 kingyo)
すみません、17の曲、「イングリッシュ・ホルン?」と書くところ「ファゴット?」と書いちゃいました。お詫びして訂正いたします。(041019 kingyo)