サントラCDレポート(TVドラマ):TBS系金曜ドラマ
「池袋ウエストゲートパーク」オリジナル・サウンドトラック
東芝EMI TOCT-24394
2000.5.31 リリース
ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」
「池袋ウエストゲートパーク」は2000年4月から6月の金曜日夜にTBS系で放送されました。
原作者は2003年に第129回直木賞を受賞した石田衣良氏(「4TEEN」で受賞)。石田氏は羽毛田さんと同い年の1960年生まれ。「池袋ウエストゲートパーク」は1997年にオール讀物推理小説新人賞を受賞した石田氏のデビュー作で、2004年1月現在第4シリーズまで刊行されています。
テレビドラマでは、脚本に売れっ子の宮藤官九郎氏、演出は「トリック」シリーズも手掛けた堤幸彦氏ほか。劇伴音楽は羽毛田さんのほか、KICK THE CAN CREWのKREVA氏、會田茂一氏(FOE)が担当。主題歌はSADSの「忘却の空」。
ドラマは池袋西口公園(I. W. G. P.)界隈を舞台に、果物店「真島フルーツ」を母と2人で営む、焼きそば好きの若者マコトとその仲間たちのまわりで起こる、ゾッとするような、でも限りなく現実に近い事件の数々を描いています。
4年前に放送されたときは、衝撃的な内容に賛否両論だったようですが、根強い人気で何度か再放送され、ビデオ・DVD化もされています。今回これを取り上げようと思ったのも、たまたま今深夜にTBSで再放送されているから。久しぶりに見たのですが、暴力に満ちていて残酷なシーンも多いけれどやっぱり引き込まれて、夜更かししてしまいました。ただ、起こる事件が2004年の日本では全然衝撃的でなくて、むしろ日常現実に起こっているもろもろの事件のほうがはるかに残酷で信じがたい。
どうなってるんだ、この世の中。
豪華な顔ぶれ
驚くのが出演者の顔ぶれ。マコトを演じる長瀬智也さんと、その彼女のヒカルを演じる加藤あいさんは当時すでに有名だったとして、脇をかためるのが坂口憲二さん、窪塚洋介さん、妻夫木聡さん、山下智久さん、佐藤隆太さん、小雪さんというすごいメンバー。
4年前だから可能だったキャスティングかもしれません。
マコトにからむ警察署長に、先日アカデミー賞にノミネートされたばかりの渡辺謙さん。マコトはボーリングがとてもうまくて、親友マサ(佐藤隆太さん)が勤める駅前のトキワボウルでいつもボーリングをして小銭を稼いだりしていますが、この署長もマイボール持参でやってきます。ところが腕前は「ナイス、ガター!」連発。私も週末はたいてい近所のボーリング場で2ゲームこなすボーリング好きなので、謙さんにはツッコミ入れたくなります。(や、私も130は越えたことないですけどね、でもガターはめったにしませんし。)
個人的感想ですが、役者の長瀬智也さんがいいなぁと思います。TOKIOの香り、まったくなし。脇では、マコトのお母さん役の森下愛子さんがとってもチャーミング。警官役の阿部サダヲさんもヘンなんだけど、妙に役にはまっててお気に入りです。
この2人のほか、何人かがドラマ「木更津キャッツアイ」にも出ていますが、これはやっぱり監督・脚本が同じ方々だからでしょうか。
それから、 マコトの元同級生で、カラーギャングのキング・タカシ役の窪塚洋介さんのイカレぶり、あまりにもナチュラルですごい迫力、なのに妙に魅力的。
タカシのとーちゃんもとても演技と思えない見事なおやじぶり。この俳優さん、きっとこれが普段の姿に違いないと思わせてしまう。多分違うと思うんですけど。
オリジナルサウンドトラック
堤監督のコメントによると、音楽へのオーダーは「ノイズをBGMにしてほしい」だったそうです。そのとおり、この劇伴は楽曲というより効果音のよう。各楽曲がナイフかなにかで切り刻まれて、その断片が場面場面に差し込まれている感じです。
だから、サントラアルバムでフルに聴いて「こういう曲だったのか」とはじめてわかることもしばしば。でも、それらの音の断片によって場面が引き締まり、スピード感が増しているのは確か。羽毛田さんの手掛けた曲は、その中でも比較的メロディアスなものが多くなっています。
(下のリストの太字が羽毛田さんの曲)
01. Kick it loud
02. Attack
03. Like this, Like that
04. Digi Rock Metal
05. West Gate Brothers
06. West Gate Park
07. I.W.G.P. Blues
08. SIVAD Drum'n Bass
09. Ambient Piano
10. Digi Mind
11. Techno Terrible
12. Terrible Funk
13. Into the Suspense
14. SIDE CAR
15. LOUD MUSIC DELIGHT
16. Style
17. One VS Many
18. Only one
この18曲全部について書くのは私にはとても無理なので、いくつかピックアップして書いてみます。
<01>は「ズ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ」というドラムのリズムの繰り返しで始まる、このドラマのテーマ的な曲。KREVA氏の曲。
<04>は速いテンポのドラム(ドラムの人がいないのできっと打ち込み音)にうなるギター、地響きのようなベースがかっこいい。「image」で羽毛田さんを聴いてる方は、こんな曲も作るなんて!ときっとびっくりするはず。
<05>は1件落着したときマコトと仲間たちのバックでよく流れる曲。羽毛田さんのピアノとギターの響き、そしてときどき差し込まれるハモンドオルガン音が
ノスタルジックで、70年代の青春ドラマや「太陽にほえろ」の音楽なんかがちょっと頭をよぎります。
<06>は私のとても好きな曲。ドラマのどこで流れていたかちょっと定かではありませんが、80年調でいい感じです。
<07>はヒカルとその親友リカが初登場するときや、ボーリング場のシーンで流れる陽気な曲。羽毛田さんの前打音バリバリのピアノもたっぷり聴けます。
<08>サンプリングした女性の声と複雑なリズムのドラムのループに、不安定なベースの音階が不気味。
<09>は、氷のような音で、現代音楽的な不安定な旋律を奏でるピアノ曲。ドラマでは渡辺謙さんの警察署長がコワイ話をするバックに、冒頭の部分が使われてました。確かに冒頭だけ聴くと、ホラーっぽい。全体を聴いてほしい曲。
<10>はドラマ初回の冒頭、池袋西口の映像にあわせて流れる曲。スクラッチのような耳障りな音が都会の一角を切り取ります。このスクラッチ音はドラマの随所に現れて、いろいろな場面を切り取ります。
<13>異次元に迷い込んだような、アンビエント感。無重力な感じ。異形の美しさを持つ曲。事件がじわじわ進行していく不安感をあおります。“TRANCE ZONE”時代に培ったテクニック?
<14>も追跡の場面などで頻繁に流れる曲。會田氏の作。
<16>は何かいやな予感がするときによく流れる。ヒカルの親友リカが、怪しい男に誘いの電話をもらったときにも。「テレンテレンテレン」という高音の繰り返しが不吉な、KREVA氏の作。
MUSICIANS
(01〜03,16〜18)
Music: KREVA
Arrangement: KREVA
KREVA(KICK THE CAN CREW)
(04〜13)
Music: Takefumi Haketa
Arrangement: Takefumi Haketa
Programming, Key: Takefumi Haketa
Guitar: Masahiro Ogura, Takashi Nishiumi
Bass: Fire
(14〜15)
Music: Shigekazu Aida
Arrangement: FOE
Guitar: Shigekazu Aida(FOE, El-Malo)
Bass: Kenji Sato
Drum: Masahiro Komatsu(bloodthirsty butchers)
このアルバムのリリースは2000年5月31日。その1週間ばかり前に40才のお誕生日を迎えている羽毛田さんにとっては、「40代最初の作品」ですね。
衝撃的一里塚。発熱中にイヤホンで聴いたら脳みそをえぐりとられそうになったので、ちょっとレポを保留にしてました。(kingyo 040129)